野菜ソムリエ上級プロ堀基子の「沖縄の長寿を支えた海の野菜、昆布」

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代表の野菜ソムリエ上級プロ堀基子です。
メンバーが3日おきにフレッシュな情報をお届けする、このメンバーブログを通じて、一人一人の得意分野や個性を知っていただけたらと存じます。

今回のテーマは、沖縄の長寿を支えた海の野菜、海藻です。
かつて長寿の島と称された沖縄。
その背景には、カロテン豊富な緑黄色野菜、ビタミンや食物繊維に富む芋、低カロリーでビタミン豊富な瓜類など、栄養価にすぐれた数々の島野菜、良質なタンパク質を含む島豆腐、海に囲まれた島ならではの新鮮な魚介類や海藻といった食材を、日々の食生活でしっかり取り入れていたことがあげられています。

たとえば、沖縄を代表する海藻といえば、もずく。
美しい海で養殖されている沖縄産もずくの令和3年の水揚げ量は22,400トンで、全国の99.8%を占めています。
スーパーなどで新鮮な生もずくが手に入る沖縄では、酢の物だけではなく、みそ汁や天ぷらも定番メニューです。
また、沖縄でアーサと呼ばれるヒトエグサは、かつお出汁のすまし汁に島豆腐とともに加え、アーサ汁として楽しむ他、沖縄そばに加えたり、かき揚げの具材にも。
さらに、30年ほど前から養殖が始まり、今では観光客にも大人気の海ぶどうも、沖縄の清らかな海の恵みの一つです。

中でも、沖縄で古くから愛され続けていた海藻といえば、昆布です。
寒流系の褐藻類である昆布を採取できるのは、国内では北海道を中心に、青森県、岩手県、宮城県まで。
なぜ沖縄では生育できない昆布が!?と思いますよね。
それは、沖縄がかつて中国やアジア諸国との貿易の拠点だったからなのです。

琉球王国が生まれる前、沖縄本島では北山、中山、南山の3つの勢力が競い合っていた三山時代。
1372年に中山の察度王が明への朝貢を始め、朝貢貿易が始まりました。
三山が統一されて琉球王朝の時代を迎えても明との貿易は続き、薩摩侵攻により琉球王朝が日中両属状態になり、中国の明王朝が清へと変わり、その後、琉球王朝が完全に日本へ併合されるまで、貿易の要衝としての位置づけは変わることはありませんでした。

清では当時、甲状腺障害が流行していたといわれ、その予防のため、ヨードを豊富に含む昆布は、清にとって非常に魅力的な交易品でした。
そこで薩摩は、北前船で関西などへ運ばれてきた北海道産の昆布を、琉球を経て清へと輸出したのです。
となれば、その中継地である琉球において、傷ついたり余ったりした昆布がいつしか食生活に根付いたとしても、まったく不思議ではありません。

こうして沖縄へ伝わってきた昆布はクーブと呼ばれ、本土と同様に「喜ぶ」とかけて祝い事などに欠かせない食材として浸透し、やがて家庭料理にも愛用されるようになりました。

マグロやカジキを芯に巻いて煮たクーブマチ(昆布巻き)は行事料理に欠かせない一品ですし、ソーキ(豚のあばら骨付き肉)などを使った汁物や煮付けにも必ず結び昆布が入っています。
中でも昆布が主役の沖縄料理といえば、このクーブイリチ―です。
イリチ―とは沖縄で炒り煮を意味し、材料は昆布を主に、豚肉とこんにゃく、お好みで彩りにかまぼこを加えることもあります。

作り方は、いたってシンプル。
まずは昆布を水に浸けて戻し、細く刻みます。
豚肉は、いきなり生のまま炒めたりせず、塊のままアクを取りながら下ゆでしてから、細い短冊に切ります。
こんにゃくも同様に細い短冊に切りそろえます。
まずは鍋に油を熱し、醤油と砂糖を煮立て、泡盛と豚肉を入れて煮て、味を染み込ませます。
肉を取り出し、油を加え、刻んだ昆布を炒め、油が回ったら、豚を茹でた汁をひたひたに注いで煮込み、煮汁が減ったらまた豚を茹でた汁を加えて煮込み、これをくり返して昆布が軟らかくなるまで煮込みます。
そして、豚肉とこんにゃく、みりんを加えて煮込み、しっとりと仕上げます。

難しい料理ではありませんが、手間と時間をかけて作るクーブイリチ―は、まさに沖縄のスローフード。
昆布と豚肉の旨みが織りなす滋味あふれる味わいは、素朴ながら奥深く、毎日食べても飽きない美味しさです。

昆布は、腸内環境を調えてくれる水溶性食物繊維のアルギン酸やフコイダン、体内の余分な塩分(ナトリウム)の排出を助けるカリウム、骨の健康に欠かせないカルシウム、抗酸化力や抗肥満作用などが期待される色素成分フコキサンチンなどを含み、沖縄の長寿を支えてきた非常に健康的な食材であることが分かります。
ただし、食べ過ぎるとヨウ素の過剰摂取となり、甲状腺機能の低下を招く場合がありますので、クーブイリチ―がどんなに美味しくても、食べ過ぎにはご用心くださいね。

ちなみに、このクーブイリチ―もそうですが、琉球料理にはよく豚肉がよく用いられます。
それは、琉球王国時代に中国からの冊封使をもてなすため、養豚が盛んになったから。
沖縄では「鳴き声以外はすべていただく」といわれるほど、豚肉を大切に食べてきました。
顔の皮はチラガー、耳はミミガー、豚足はテビチと呼び、今も頭の先から足の先まで食材として使いきります。
ちなみにクーブイリチ―では通常、三枚肉と呼ばれるバラ肉を使用しますが、写真のわが家のクーブイリチ―は、脂っこいのが苦手な夫のために、グーヤヌジーと呼ばれる赤身の多いウデ肉を使っています。

なお、那覇市の昆布の購入量は、昭和63年(1988年)まではほぼ毎年、全国1位でした。
しかし、平成に入ってから徐々に順位が後退し、平成11年(1999年)からは2桁に、令和2年(2020年)には31位にまでランクダウンしています。
その大きな理由の一つが、手間と時間がかかるクーブイリチ―のような昆布が主役の料理を作らなくなってしまったからではないかと想像します。

毎月第3木曜日は「琉球料理の日」。
私は沖縄生まれでも沖縄育ちでも沖縄に嫁いだ訳でもありませんが、沖縄の風土や人の温かさ、自然や文化の豊かさに魅せられ、夫婦で移住して24年が経ちました。
この沖縄の地に暮らし、家族のために日々料し、食に携わる仕事をさせていただく者として、長く愛され受け継がれてきた琉球料理に敬意をこめて、せめて月に一度はこうした伝統的な沖縄家庭料理を作ろうと努めています。

最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。
次回もまたどうぞお楽しみに!

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